どれほど寝ただろうか。携帯の着信音で目が覚めた。慌てて、携帯を手に取ると京介からだった。
「お前どこにいるの。もう打ち上げ始めてるんだけど」
「ワリイ〜。寝てた。今から行くから」そう言って、あわてて電話を切った。
車のエンジンをかけて時計を見ると、もう七時を回っていた。最近は日暮れの時間が長くなったから、時間の感覚が曖昧になる。
まだ昼間だと思っていたら、ついつい寝坊してしまったようだ。会社近くのパーキングにダットサンを止めて、タロチャンに向かうと、みんなそこそこ飲んでいたらしく、すっかり出来上がっていた。
「今日のヒーロー。うちらの大将のお出ましだぞ〜」康市がそうというと、みんなが一斉に拍手した。
みんなに誘導されるように、座敷の長テーブルの上座に上げられた。
「賢一、とりあえず乾杯の音頭をお願いします」京介がそう言ったので、僕はグラスを手にすると、立ち上がった。
「みんな、今日はありがとう。みんなのおかげで無事にグローバル・エージェンシーに我が社の企画提案を受け入れてもらう運びとなりました」
「はい、そこまで」
康市がグラスを握ったまま、横槍を入れた。
「もう、いいでしょう。年取ると話が長くなるので僕が乾杯の音頭をとります。乾杯〜」
「カンパイ〜」
おいおい、俺の立場はどうなるよ。しかも、無修正DVD間違えて持ってきたやつに乾杯の音頭取られてるし。まあいいか。僕はそのまま座ると、みんなとグラスを合わせた。
「さ、じゃんじゃん飲もう。今日も書け書けスクリプト。宴会は飲め飲め、会社の金ってな。ぎゃはははは!」
寒いギャグにみんなドン引きだったが、京介は全然気にしてなかった。それだけ今日のプレゼンが充実した時間になったんだろう。
「へい、お待ち。ホッケね」
他愛もない会話をはさむように、大将がホッケを持ってきた。若者の飲み会で、ホッケはマストアイテムだ。安い・早い・美味い・大勢で食べられるホッケは、いつの時代も若者の飲み会の最高の肴なのである。 |
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