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「率直に申し上げますと、ディスカウントしていただいた予算でも、リスクが高すぎると思います。たしかに資金調達をする方法はあります。

新株を発行したり、金融機関からの借り入れも可能です。ですが、株主総会や融資審査で説得できる資料を呈示していただいてはいない。この件についてはどのようにお考えですか」

中野をみくびっていた。要はこちらに出資させるか、利益が出ない額まで下げさせて受注させようとしているのだろう。答えにつまった。床を見ると、汗がぽたぽたと滴り落ちていた。佐藤もそこまでは読んでいなかったのだろう。

押し黙ったままだった。やられた、完全に打つ手がない。

会場が静まり返り、しばらく沈黙が続いた後だった。

「具体的にはいくら、必要なのかね」静まり返った会場だけに余計に声が響いた。

皆が声の方に視線を移した。会場のドア付近に初老の男性が立っており、その回りをシークレットサービスらしき男達がかためていた。

周囲をシークレットサービスらしき男で固めた初老の男性は、ステージの真下までやってきた。そして再び、グローバル・エージェンシーの社長、中野晴彦に向かって質問を繰り返した。ライトに照らされた初老の男性の表情は迫力に満ちていた。

会場から小さなざわめきが響き始めた。

富国電気・富国電気……。

小さなざわめきの一つが耳に届いた時、ようやく気がついた。

日本最大手、デジタルデイバイスメーカー富国電気の代表取締役・会長・栗原孝三郎だ。

僕の叔父で死んだ父親の弟だった。

「このプロジェクトの運営について、弊社、富国電気は大変興味があります。運営資金を捻出するのが難しいのなら、全面的に出資しましょう。機会をあらためますが、持株会社を設立して、御社と、このプロジェクトを運営するための新会社を設立したい。中野さん、いかがですかな?」

「は、はい。願ってもないことです。よろしくお願いいたします」

中野社長は、机に頭をぶつけそうな勢いで頭を下げた。

「承知しました。それでは日を改めて、詳しい話を進めることにしましょう。ところで、ちょっとよろしいかな」そう言うと、叔父は、壇上に上がってきて、僕の所に近づいてきた。

「ケンチャン、しばらくだな。もう20年近くも会ってないな」

「叔父さん、突然でびっくりしたよ。どうしたのさ?」

「いやいや、今日は差し出がましい事をしたが、噂を聞きつけたら、甥っ子の晴れ姿をどうしても見たくてな。こんなにりっぱになって。


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