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なるほど、どの世界でもトップを取るのは簡単なことじゃない。スタッフとすったもんだしているうちに、プレゼンの日がやってきた。

僕は、シャッター商店街の中にあるオフィスのスタッフルームで、頭をかかえていた。タバコを吸う気にもならない。

心配してくれたのか、ペコちゃんが何度もコーヒーを入れてくれた。コーヒーの飲みすぎで、腹がタプタプになったが気合は入った。勝つ、絶対に勝つ、勝ってみせる。

今日のプレゼンは、桶狭間の戦いみたいなものだ。力のないバカ殿だった織田信長が、一夜にして天下に名を知らしめた戦いのように、このプレゼンは僕にとって人生最大のチャンスだ。文字通り、天下分け目の戦いだ。

ここを突破すれば、確実に日本の頂点が見えてくるはずだ。絶対に負けるわけにはいかない。ペコちゃんが入れてくれたコーヒーの残りを一気飲みすると、椅子から立った。

「京介、康市、そろそろ時間だ。出かける前に、向こうで最後の打ち合わせをしよう」

ドアを開け、オフィスの自分の席に座ると康市と京介も無言で僕の後に続いた。そして、机の上のパソコンを立ち上げて、チェックをはじめた。

「京介、佐藤君はまだこないの?」

「あいつは、いつもギリギリだからな。ったく何やってんだか。待っててもキリがねえから、先に確認できるとこから、話を進めちまおうぜ」京介は、苛立たしそうに、パソコンのキーを叩いた。

京介の言うとおりだ。佐藤は、癖の強いやつだから仕方がない。しかし、頭脳明晰な上に、交渉能力に優れており仕事には欠かせない人物なので始末が悪い。

佐藤博之は、東大法学部を首席で卒業して、うちに入ってきた変わり者だ。もっとも新卒採用じゃなく中途採用だが、大手自動車メーカから転職というのは、やはり変わっているとしかいえない。

いくら日本経済が芳しくないとはいっても、自動車産業が輸出の基幹産業なのは代わりがない。


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